福岡家庭裁判所小倉支部 昭和50年(家)2292号 審判 1976年3月05日
本籍ならびに住所 北九州市
申立人(後見人) 川口広一(仮名) ほか一名
国籍 韓国慶尚南道 住所 北九州市
未成年者(被後見人) 李良代(仮名)
主文
申立人等が未成年者李良代を養子とすることを許可する。
理由
1 本件申立の要旨は、申立人等は夫婦であり、申立人川口広一は未成年者の後見人であるが、昭和四三年二月一〇日より未成年者を実子同様に養育しているので未成年者を養子とするため本件申立に及んだというにある。
2 本件調査の結果によると上記の事実のほか次の事実が認められる。
(1) 未成年者は、昭和四二年六月二日北九州市○○区△△町○丁目において韓国人である父大畑こと李和一と日本人である母山下光子間の嫡出子として出生したが、母光子は未成年者の生後四〇日ぐらいを経過した頃、未成年者を申立人等に託したまま家出をし、父李和一も未成年者を申立人等の養子にやるからよろしく頼むと言つて大阪方面に出奔したままであり、同人等の所在は未だに不明である。
(2) 申立人川口広一は未成年者のため昭和四九年一月七日当裁判所に後見人選任審判の申立をし同年四月二六日同人が未成年者の後見人として選任されている。
(3) 本件は後見人、被後見人間の養子縁組であり利益相反行為にあたるため、申立人は昭和五〇年一二月一九日特別代理人選任の申立をなし、昭和五一年二月二日未成年者の特別代理人として、北九州市○○区△△○丁目田尻文子が選任され同人は本件養子縁組は未成年者の利益になるものであるとして承諾している。
3 本件申立については、未成年者の国籍が韓国であるためその裁判管轄権が問題となるが、申立人両名および未成年者がいずれも北九州市内に住所を有するので日本国が裁判権を有し、当裁判所に管轄権があるものと解する。
4 ところで養子縁組の要件については法例第一九条第一項は「養子縁組ノ要件ハ各当事者ニ付キ其本国法ニ依リテ之ヲ定ム」と規定し、養子縁組の実質的成立要件の準拠法として、当事者双方の本国法の結合的適用を指示しているが、韓国渉外私法も第二一条第一項にわが国の法例と同様の規定をおいている。そこで養子縁組が有効に成立するためには養親と養子双方についてその属する国の法律の要求する積極的要件と消極的要件の具備が必要になるが、本件の場合申立人等は成人の夫婦で法律の要求する要件を充たしているから養親の側には縁組の障碍となるものは存在しない。
次に養子の側についての障碍事由の有無について考えてみると韓国民法第八六九条によれば養子となる者が一五歳未満であるときの養子縁組については、父母の承諾、または後見人が親族会の同意を得たうえで承諾することを必要とし、後見人と被後見人間の養子縁組については同法第八七二条に親族会の同意を得なければならないと規定しており、そのほかに縁組許可の審判はいらないことになつているが、本件の場合には未成年者の父母の所在、親族の存否は不明であり、その承諾又は同意を得ることはできないので、一見積極的要件が存在せず縁組の実質的要件を欠くようにみえるのであるが父母の承諾、親族会の同意を要するとする規定の立法趣旨を考えるに、いずれも養子となる者の福祉と韓国に特有の家の維持がその根底にあるものと解されるので、本件の未成年者のようにその親族の存否不明の場合には家について考慮する必要はなく、ただ未成年者の福祉のみを考えればよいことになる。そして本件養子縁組が未成年者の将来の福祉につながるものかどうかの判断は家庭裁判所がすることが最も適当である。
前記認定した事実によれば申立人らが未成年者を養子とすることは右未成年者の福祉に合致するものと認められる。
よつて本件申立は理由があり、これを認容することとし、主文のとおり審判する。
(家事審判官 仲吉良栄)